アトピーのこと

影山雑記

思い立ち筆を執っている。だいぶ久しぶりの更新。


私は幼少期からアトピー性皮膚炎を患っていて、先日43回目の誕生日を迎えた今でも投薬による生活を続けている。

いつかは完治を目指して脱ステロイドだのなんだのと奔走したときもあったが、今では宿痾として付き合っていって棺桶に入るまで薬を手放す生活はあり得ないのだと考えてきた。

アトピー患者の皆々様やその家族には言わずもがなだと思うが、その人生たるや色々と大変なことの連続で簡単には筆舌しがたいものがある。


物心ついた時から通っている皮膚科があって、ひょんなことから先進医療を勧められて大きな病院に紹介状を書いてくださった。

なんでも、最近はアトピーに対する高度医療がだいぶ進んだ様子で寛解も見込めるという。

慣れ親しんだ(?)病院を離れるのことは聊か寂しくもあったが、物は試しというか、性格上何か事が起きるタイミングというのは起こるべくして起こるのだという思い込みも助長し、大病院で診察をした。

受付から診察までの待合の時間、看護師さんが問診をしてくれたのだが、私を見るなり「だいぶ酷いのですね」と一言。

確かに季節柄、私の場合(人それぞれで違うみたい)毎年晩冬~春は一年で一番肌の状態は悪い。が、あたたかくなってくると同時にだいぶ状態は緩和されるのだが、今は快方に向かってるのだと自負していた。

だが、看護師さんからするとひどい状態だという。「慣れてしまったんだね」と。


霹靂というか、そんなことを言われると思っていなかったので、そう言われると確かに、私の中では「良い状態」と解釈していても、他者から見たらそうでもないのか、と、少しショックを受けた。

周りはわざわざ言わないだけであって、そういう解釈を口に出さずしているのかと。

いや、だからって悲憤慷慨したりだとか他者に猜疑の目を向けるだとかではなく、確かにアトピーの無い生活なんて考えたこともなかった(正確に言うと考えるのをやめていた?)ので、一般的なスタンダードな視点なんて私は知る由もないわけで。


というわけで診察室で先生に診察を受けた。

半裸になって全身を診た後、高度医療について話を持ち掛けられた。

大きく分けると5つの方法。注射をする治療が2通り。内服薬が3通り。

ただ、だれでも受けられるというわけでないようで、そこに行くまでに適切なヒアリングや診断が必要だという。

なるほど、もうそういうステップで話をするのだな、と。

先述の通り、私はもう死ぬまでアトピーと付き合って、薬を手放すなんてことは考えていなかったので、突然飛躍的な話になって流石に先生に聞いた。

「一つ確認したいのですが。私は今までアトピーは根治はせず、死ぬまでこんな感じだと思っていたのですが、この医療を受ければ根治するのですか?そういう治療をする、という解釈でよろしいのでしょうか?」

だが話を聞くと結果は様々で、根治というのは人それぞれだということだった。ただ、今までよりも劇的に効果が出る治療であると。また、注射のほうが結果が安定しているとも言われた。

ただ、高度医療ということでお金がかかることがリスクの一つだというが、アトピーの人からすればお金なんていくらでも積むから治したいと思う人のほうが大半なのではなかろうか。

日本には高額医療制度もあるし、全然現実的な話みたいだ。

しっかり治療していきますのでこれから宜しくお願いします、なんて先生に言われて、いや嬉しいんだけど、なんか展開が急すぎて気もそぞろに診察室を後にした。



劇的に良くなる。

なんて考えたことが無かった。そういうものだと思っていた。

小学生の頃は皮膚のことで友達に馬鹿にされて学校へ行きたくなくなった時もあった。

母親に「なんでこんな体で僕の産んだの?」なんて辛辣な言葉を突き刺したこともあった。母はさぞ、胸が締め付けられただろうか。

思春期は白いYシャツを着るのが嫌だった、血が付くと目立つから。

恋人と寝るときは白いシーツが嫌だった。シャツと同じく汚れるのが怖かった。

枕カバーも白や濃い色のものは駄目だ。頭にもアトピーがあるから。

寝てる間に掻くもんだから、手袋をして取れないようにガムテープでぐるぐる巻きにして寝ていた時もあった。あれはきつかった。

風呂から上がれば薬を塗らない日など一度もなかった。

顔はいつも赤いから、外に出るのが嫌だった。

ステロイドの影響で全身の皮膚が薄くなり、お酒を飲むとさらに赤面し、わざわざそれを周りに説明するのが心底面倒くさかった。

自分でも気が付かないうちに体中を搔きむしってきた。


人間面白いもので、そんなことさえ慣れると何とも思わなくなる。

諦めていた?うーん、そう言ってしまえばそうなのかもしれないけど、そんな簡単な答えでもない気もする。


ブログをしたためている今でも、少し不思議な気持ちだ。

43年間皮膚科に通い詰めた、いわば皮膚科のプロだ。

そのプロ生活に終止符が打たれる。

定年を迎える会社員はこんな気持ちなんだろうか。嬉しいんだか寂しいんだかよく分からない。

そんな心持のまま、本格的な治療は6月くらいから始まるようだ。


せっかくなので、誰かの救いになったらと思い、経過報告はブログかなんかで発信できればと考えている。

食道アカラシアの時もそうだった。こういう経験が誰かの背中を押してあげられるならそれはとても意味のあることだ。


全てタイミングなのだな、と痛感している。

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